不思議な異世界ファンタジー「キノの旅」

「キノの旅」のあらすじ

世界の秩序が崩壊したような不思議な世界を、主人公の「キノ」が二輪車のエルメスと一緒に旅をしてまわるファンタジー作品。
基本的に一話完結の形となっており、キノが旅の途中で立ち寄る場所で起こる出来事がエピソードとして語られる。
そのため全体を貫くストーリーはなく、毎回毎回異なるエピソードを楽しむ作品だ。

そもそも、キノの旅の目的も明確にされていない。
キノが立ち寄る国や場所は必ずしも魅力的な環境とは言い難く、何らかの問題を抱えていることが多い。
そのためディストピアSFとしての面を持ち合わせている一方、ひたすら放浪の旅を続けてさまざまな場所や人と出会うという点では、ロードノベル的な面も持ち合わせている。

「キノの旅」の登場人物・見どころ

まず主人公のキノと言葉を話すことができる二輪車(モトラド)のエルメスが登場する。
ほかにレギュラーキャラクターと言える登場人物として、シズやティー(ティファナ)、犬の陸、フォト、キノから「師匠」と呼ばれる人物、その師匠とともに旅をしている「相棒」などが挙げられる。

キノが旅の途中で立ち寄る場所の設定と、そこで起こるエピソードの数々がなんと言っても見どころだ。
奇妙な場所が多いのだが、その「奇妙さ」は住んでいる人たちによってもたらされていることが多く、人間の狂気やエゴ、理不尽さなどが露になった社会が描写されることが多い。
キノ自身は感情の起伏はあまりなく、淡々とした印象を受けるのだが、それがかえってキノが立ち寄る場所に住む人たちの異様さを際立たせることに成功していると思う。

登場人物たちも、捨て子だったり、売られてしまって身寄りがないなど不遇な環境に置かれていることが多く、そうした設定が作品の世界に深みをもたらしている。
人間の醜さや社会の歪みの中で、人間はどうやって「まともに」生きていくのかを表現しようとしている作品なのかもしれない。
一話完結なのでわかりやすいし、後追いする際にも、作品の基本設定さえ踏まえていればどの話から入っても楽しめる。
しかも毎回毎回ユニークな世界が待ち構えているので、「次はどんな話なんだろう」とワクワクして待つことができる。

ファンタジー&SFの設定ながらも、人間の内面を描き出している面があるのでリアリティがある。
「実際には存在しないけどあってもおかしくない」世界で、ストーリーが展開するので感情移入できる点も大きな魅力だ。
「自分がこんな世界の住民だったらどうなるだろうか?」なんて考えながら見るのも楽しいし、ぼくは正直この世界に住みたいなんて変な考えを持ってしまった。

原作はライトノベルで、小学生から高校生あたりがおもな読者層らしいが、これまで挙げてきた見どころからも大人が見ても十分楽しめる内容だ。
むしろ大人の方が、いろいろと深い楽しみ方ができる作品ではないだろうか。